低収入で生活するのも精一杯。事情があって定職に就けずに収入がほとんどない。そういう状態になってしまった人に対して、国はいくつものセーフティネットを用意しています。その中のひとつが生活保護制度がありますが、生活保護はどうもイメージが良くないので利用したくない人もいますよね。
でも、そのような制度を使うのは国民の権利であり、貧困から抜け出すための最短ルートでもあります。ここではそんな生活保護についての正しい知識を知ってもらうために、生活保護の基礎知識についてご紹介していきます。
生活保護制度とは
生活保護制度は、収入が少なくて生活が苦しい人に対して、その程度に応じて必要な保護を行うための制度です。健康で文化的な最低限度の生活を国が保障し、経済的な自立を促すことを目的としています。
生活保護制度を長期間利用している人もいますが、本来は経済的な自立をするサポートのための制度ですので、いつまでも利用し続けるのは本来の趣旨とは違います。「いずれ生活保護を使わないで生活したい」という思いを持って利用しましょう。
生活保護制度を利用する方法
生活保護制度を利用するには、まず暮らしている地域にある福祉事務所の生活保護担当に相談します。そこで生活保護制度を使わないで生活を安定させることができないかと話し合い、どうしようもないと判断されたら申請を行うことになります。
生活保護制度を利用する条件
- 売却できる資産がない
- 働くことができない
- 年金や手当などの制度を利用できない
- 親族からの援助を受けられない
考え方はとてもシンプルです。「どうやっても生活のためのお金を準備できないなら、生活が安定するまで国が支援します」というのが、生活保護制度を利用するための条件です。ですので、持ち家があるなら、まずそれを売ることが優先になります。
パートやアルバイトでも仕事ができるなら、「まずは働いてくださいね」というのが国のスタンスです。同じように年金や手当などの制度を利用できるなら、そちらが優先されます。
また、親族からの援助を受けられないというのも重要で、芸能人の親が生活保護制度を利用してて問題になったことがありましたが、親族の生活に余裕があり、その親族との関係が悪くないのであれば、そちらから援助を受ける必要があります。
生活保護の種類
生活扶助:日常生活に必要な費用
食費等の個人的費用
光熱費などの世帯共通費用
住宅扶助:アパート等の家賃
定められた範囲内で実費を支給
教育扶助:義務教育を受けるために必要な費用(学用品、給食費など)
規定の基準額を支給
医療扶助:医療サービスの費用
費用は直接医療機関へ支払われる(本人負担なし)
介護扶助:介護サービスの費用
費用は直接介護事業者へ支払われる(本人負担なし)
出産扶助:出産にかかわる費用
定められた範囲内で実費を支給
生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
定められた範囲内で実費を支給
葬祭扶助:葬儀のための費用
定められた範囲内で実費を支給
生活保護制度の支給額
生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費というものがあり、それと収入との差額が保護費として支給されます。最低生活費というのは地域や家族構成によって異なります。具体的な例を挙げて見ていきましょう。
東京23区内・45歳・独身
生活保護費:132,530円
【内訳】
生活扶助基準額:78,830円
住宅扶助基準額:53,700円
北海道旭川市・35歳・3人家族(小学生1人)
生活保護費:185,640円
【内訳】
生活扶助基準額:139,640円
児童養育加算:10,000円
住宅扶助基準額:36,000円
もし収入があった場合には、生活補助基準額から収入分が差し引かれます。また、生活保護を受けている場合には医療費がかかりません。この他にも支払いが免除されるものがありますので、次章で詳しくご紹介します。
生活保護で支払いが免除されるもの
- 医療費
- 住民税・所得税・固定資産税
- 国民年金保険料
- 国民健康保険料・国民健康保険税
- 介護保険料
- 雇用保険料
- 介護サービスの利用料
- NHK受信料
- 水道料金
- 保育料
- 交通費
自治体によっては免除されないものもありますが、生活保護を受けることでこれらの支払いが免除されます。ただし、自動的に免除されるものと申請が必要なものがありますので、詳細は相談員に確認してください。
生活保護制度のデメリット
生活保護を受給すると、生活をするにあたって下記のようなデメリットが発生します。
- 車やぜいたく品を持てなくなる
- お金を借りられなくなる
- クレジットカードを作れなくなる
- 相談員が定期的に訪問してくる
- 親族に生活保護を利用していることがバレる
- 引越しを求められることがある
- 貯金ができない
- 必ず受給できるわけではない
かなり多くのデメリットがあります。それぞれのデメリットについて簡単に説明してきます。
車やぜいたく品を持てなくなる
生活保護制度を利用するということは、最低限度の生活を受け入れるということです。受給したお金を使ってぜいたく品を購入するのはNGですし、そもそもお金がないので高価なものを買う余裕がなくなります。
ただし、生活に必要なものであれば多少高額なものでも購入できます。例えばテレビや冷蔵庫、洗濯機などの家電や、パソコンやスマホなども現代生活に置いて必要なものですので所有することが認められています。ただし、テレビなどでも大画面4Kテレビなどになると「ぜいたく品」と判断されてしまうこともあります。
お金を借りられなくなる
生活保護を受けると、どこからもお金を借りられなくなります。そもそも金融機関の場合には安定した収入のない人にお金を貸すことはありません。さらに国の貸付制度も生活保護を受けている場合には返済不能ということで利用できません。
生活保護を受けていても突発的にお金が必要になることもありますが、そういう場合にもどこからもお金を借りることができません。もし借りられたとしても、それは収入と判断され、生活保護費から差し引かれてしまいます。
クレジットカードを作れなくなる
収入がありませんのでクレジットカードを作ることができなくなります。さらにすでに手元にあるクレジットカードも、解約する必要はありませんが、使用することはできなくなります。クレジットカードで買い物をしていることがバレた場合には、生活保護費の返還を求められることもあります。
公共料金や携帯電話料金など、生活に必要なお金の支払いに関してはクレジットカードの使用を許可してくれることもありますが、クレジットカードを使う場合には明細の提出を求められることもあります。
相談員が定期的に訪問してくる
生活保護は自立支援ですので、定期的に相談員の訪問があります。そのこと自体には問題はありませんが、生活そのものをチェックされることになりますので、以前の訪問からモノが増えていたりすると、その説明を求められることもあります。
抜き打ちで来られることもありますので、常に節度のある生活を心がけなくてはいけません。
親族に生活保護を利用していることがバレる
生活保護を受けるときには、親族からの援助を受けられないことが前提ですので、親族には確認のための連絡が行きます。基本的には3親等内が対象ですので、かなり広範囲に知られてしまいます。親族にしてみれば「援助できない」と断ることになるので、その後の関係がぎくしゃくすることも考えられます。
親族にはバレてしまいますが、近所の人にバレるというようなことはありません。生活を見られて噂になることはありますが、どこかで公表されるということはないので安心してください。
引越しを求められることがある
もし生活保護を受ける前に住んでいる家の家賃が高すぎたら、住宅扶助基準額の範囲内で暮らせる場所への引越しを求められることがあります。引越費用は自分負担ですので、お金がないと引っ越せないことになりますが、その場合には引越ししなくても済むケースもあります。
ケースバイケースで違いますが、そのようなことがあるということだけでも頭に入れておきましょう。
貯金ができない
生活保護を受ける場合には、原則として貯金ができなくなります。貯金は資産ですので、資産があるなら生活保護はいらないということになるためです。ただし、毎月支給されるお金だけでやりくりするのは突発的な出費があったときに困ります。
このため、支給額の半額程度なら貯金しても咎められることはありません。また、家電の買い替えのための貯金や、高校生が将来の生活のための貯金は認められています。ただし、これらもきちんと担当者に説明し、許可を得ておく必要があります。
必ず受給できるわけではない
最大の問題は、そもそも生活保護を必ず受給できるわけではないということにあります。生活保護を受ければ、働かずに生活ができます。このため安易に申請する人が後を絶ちません。すでに210万人もの生活保護受給者がいて、国としても予算が無限にあるわけではないので、できるだけ受給させない方向に進められます。
もちろん、本当に必要な人には支給しますが、そのためのハードルはかなり高く設定されています。誰でも簡単に受給できるわけではありませんので、その点だけはしっかりと頭に入れておいてください。
まとめ
生活保護制度を利用するのは国民の権利です。このため、生活がどうにも行かなくなった場合には、おかしなところからお金を借りようとせず、まずは福祉事務所に相談してみましょう。生活保護以外の解決方法も含めて提案してもらえます。
受給できるとなっても、なんとかしてそこから抜け出すことを目指しましょう。生活保護はあくまでも自立支援のための制度であり、生活するにあたって、何かと不便な思いをすることになります。自由な生活を取り戻すという意識を強く持って、そのための生活支援として活用しましょう。